鍵のナンバーがわかってしまう
ずいぶん昔のことになります。私が小学校5年生から6年生にかけての時期になんだか不思議なことが起きました。鍵と言えば今はデジタルな磁気を使ったものや顔認証など最先端のものが増えています。以前は子供が使える鍵はシリンダーがついていて「南京錠」と呼ばれる形式のものがほとんどでした。ここにスタイルは南京錠なのですが鍵を差し込むのではなく3桁か4桁のダイヤル式の数字を合わせるものが登場しました。子供なんてすぐに鍵をなくしたりするので便利だということで爆発的に増えました。これだって数字を忘れてしまったら元も子もないのですが。
案の定クラスメイトの小野寺くんは複数の鍵を持っていたせいか自転車の鍵の数字を忘れてしまいました。買ったばかりだったことも理由かもしれません。
困り果てた顔の小野寺くんの鍵を私が手にしたとたんに「4」「1」「7」という数字が頭に浮かびました。浮かんだというよりも声が聞こえたという感覚でしょうか。頭に浮かんだというのも正確ではありません。本当は胸のあたり浮かんだ感じです。
とにかく鍵は開いてしまいました。小野寺くんも私もびっくりです。小野寺くんは「なんでわかったの」「数字教えてないよね」そうこの鍵の話をするのは今が初めてなのです。場所は学校の自転車置き場でした。恐る恐る隣に停めてある他人の自転車の鍵を触ると今度は「5」「3」「7」という数字が聞こえてきました。これも見事に開いてしまいました。次々に試してみると自転車置き場にあった20台ほどの自転車のすべての鍵のナンバーがわかってしまうのです。
こんな現象が5日ほど続き、私はまるで英雄気取りでクラスメイトたちを集めて演技をしてみせた。「どんな鍵のナンバーもわかってしまう天才少年」。ついに少年誌が嗅ぎつけて取材にも来た。ところが徐々にナンバーが浮かばなくなり、7日目頃にはまったくわからなくなってしまった。私の評価はペテン師扱いに変わり、誰も相手にしてくれなくなった。鍵のナンバーがわかってしまう出来事はこれで終了となった。
ところが先日妻が銀行預金口座の整理を始めたときに、とある信用金庫の暗唱番号を忘れてしまったと言ってきた。そのキャッシュカードを手にしたとたんに「*」「*」「3」「5」という数字がパット胸に浮かんだ。もちろん私はこの数字を見たことも聞いたこともなかった。暗唱番号は合っていた。天才老人がよみがえった。